占領軍のコールサイン [JJ1WTL]

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はじめに

日本人によるアマチュアが許可される以前,占領軍によるアマチュア局が運用されていました.
最初にその頃のコールサインについてまとめますと,以下の四つに区分できます:

1.ポータブルJ(#)Wのコールサイン/J(#)1945(S20)年〜
2.Jの1×3形式J#$$$1945(S20)年〜
3.JAの2×2形式JA#$$1949(S24)年元旦〜
4.KAの2×2形式KA#$$1952(S27)年6月中旬〜

ここで,「#」は数字(コールエリア),「$」はアルファベットです.
では,以下に順にみていきます.


ポータブルJ(#) の時代

登場時期:1945年

その占領軍のアマチュア局ですが,運用の開始時期については正確には追い込めていません.
しかしヒントはあります:

ヒント1
FCC(アメリカの連邦通信委員会)は,アマチュアの再開を1945(S20)年11月15日から許可しています.
ただし若干条件が付加されており,「10mバンドほか」「中部・南部・西部太平洋地区は除外」――とされています[QST1945-12 p.31]
もっとも,アンカバー的・ゲリラ的に運用していた軍人さんも,ありやもしれませんが.

ヒント2
1945年12月14日付のQSLカードが見つかりました.[TKS TO W5KNE]

これらから,

「再開の1945(S20)年11月15日」 と 「1945(S20)年12月14日」 との間

――とまでは追い込めます.
いずれにしても1945(S20)年のうちからなのは間違いありません.

実事例

さらに当時の雑誌――たとえばCQ誌の「Calls Heard」――を紐解いたり,お寄せいただいた情報からしますと,以下のような局が見つかります.

QST誌の「How's DX?」欄での掲載
以下の局を紹介しています:
1946年1月号 発見にいたらず
1946年2月号 W6NSL/J, W9TQD/J, W5KIO/Iwo Jima, W6PUZ/Tinian, W6HQN/J
「正しく許可された局だよ」との記事(p.51):
1946年3月号 W9TQD/J, KB4AL/Marshall
1946年4月号 W9TQD/J, W5HHO/J, W2JE/J5, W5DBT/Tinian, W2OAA/J8 in Seoul, Korea
(W2JE: Captain Augustine John Gironda, by W5KNE)
1946年5月号 W1NQM/J5, W2OAA/J8, W9DCH/J at Iwo, W5HKB/J
1946年6月号 W6PUZ/Tinian, W9NWM/Majuro in the Marshalls, W6RJG/J9 on Carlson Is. in the Marshalls, W8RWW/J9 on Kwajalen, W4GFK/J9 on Bikini Atoll, W9DCH/J, W7ELL/J in Iwo, W2JE/J, W3HAE/J
1946年7月号 W6URY/J5, W3GZT/J5 on Okinawa, W2OAA/J8 in Seoul, Korea ex-JO1MO, ex-AK1MO, W5ILN/Tinian, W9CPJ/Tinian, W6MBA/Tinian, W6PUZ/Tinian, W8RWW/J9 on Kwajelain, W1HUX/J9 on Eniwetok
1946年8月号 W9JYF/Jが東京で3ヶ月のうちに350コンタクトを達成」と報じています(p.63).

その他の情報による例

「ポータブルJ(#)」形式の局の例
W2CD/J1946年,CQ誌#2
W2KFB/J1946年,CQ誌#2
W2KFB/J2July 1946 QSL [by W5KNE] Julian D. Hirsch, Johnson AAB, 27 miles Northwest of Tokyo; followed by J2AAP
W8FYJ/J1946年,CQ誌#2
W2CDJ/J2Aug. 3, 1946
W2EKK/J21946年,QST 1946-01
W5HH0/J21946年,CQ誌#2
W4HRP/J3July 23, 1946 QSL [by K8BHG]
W6QEE/J51946年,CQ誌#2
W8VHP/J71946年,CQ誌#2
W2LRI/J91946年,クェゼリン,JARL NEWS S44.2.7号に本人による懐述記事あり
W8VYO/J91946年,CQ誌#2
W8RWW/J91946年,クェゼリン,QST 1946-08 p.63(同年6月号p.52には「at A.M.Magugna」とある)
W1HUX/J91946年,エニウェトク,QST 1946-07p.59
W4GFK/J9
or W4GMK/J9
1946年,ビキニ,QST 1946-08 p.64
一つの記事中で二つのコールサインが出てくる.
W4HLO/J91946年,クェゼリン,W5KNEによる.
ACRM Archie Erving Cannon, Jr. (1923-1993), Carrier Aircraft Service Unit Number 8 (C.A.S.U. #8) on Kwajalein Atoll in 1946, the son of Archie E. Cannon.
ACRM: Aviation Chief Radioman.
W6QEE/J9July 20, 1946; http://hamgallery.com/qsl/deleted/RyukyuIslands/w6qee.htm

J9の範囲

上表のように,のちに沖縄限定で使われることになるJ9は,戦後しばらくは『小笠原』や『南洋諸島』でも使われていたことが判ります.

もっというと,沖縄は戦後しばらくはJ5でした(例:QST誌1946年7月号のW3GZT/J5 on Okinawa).
J9の適用先は,次のように切り替わっています:

・QST誌1946年8月号まで
 J9は南洋諸島だけ (例:W8RWW/J9 on Kwajalein, W4GFK/J9 on Bikini Atoll)

・同1946年9月号から
 J9は沖縄にも (例:W2JE/J9 on Okinawa)

『小笠原』のJ9

時代が少し下がりますが,US-CQ(CQ Magazine)誌の1948年4月号p.74,76のカントリーリストに,『沖縄』とともにJ9として掲載があります:


一方で,遡った頃の話.
1947年のQSTには「W5LIV/Iwo(硫黄島)とW2CDJ/J2(横浜)とが6mでQSOした」――という記事が載っています.
ほかにもこのページには硫黄島からはW3KXO/Iwoという局も出ていたともあります.
また,QST誌の1946年1月号のW4BOW/Iwoについては前出のとおり.
これらのことから,少なくとも1946〜1947年ころの硫黄島には,とくにプリフィクスは定められていなかった――とも言えます.

US-CQ誌の1947年8月号p.44にも,実際にQRVがあったことを示す記述――3行目の「W5DIV/J9 on Iwo Jima」――があります:

QST誌のいうW5LIV/Iwoと,US-CQ誌のいうW5DIV/J9 on Iwo Jimaとは,同じ局に思えますが.

『南洋諸島』のJ9

これは,戦前のコールエリアに従ったものです.戦前は,
J9CA〜 が台湾
J9PA〜 が南洋諸島
でした.


Jの1×3形式 の時代

登場時期:1946年

まずは,いつからこの「Jの1×3形式」のコールサインが割り当てられ始めたか?ですが,QST誌の1946年9月号で,J9AAG, J9ABF, J9ANBが現れています.
またJ9以外では,同10月号でJ2AAF, J2ABCが見つけられます.
ですから,「1946年から」だったことになります.

記事に見る「Jの1×3」形式の登場時期,1946(S21)年
号(年月)QSTUS-CQ
1946.9 J9AAG, J9ABF, J9ANB  
1946.10 J9AAR, J9AND
J2AAF, J2ABC
 
1946.11 J9AAE, J9ACE, J9LG
J2AAB, J2AAF, J2AUW, J2JSB
J9AAB, J9AAR
1946.12 J9AAK, J9AAR, J9LG
J2AAO, J2AAP, J2EUG, J9AAR
J9AAB, J9LG
J2ABC (Hank McTighe), J2EUG, J2UVW

一方で,後述のコールエリア図の説明にもあるとおり,“portable indicator J”を使う局もあり,実際,次項の1947年のリストでも,以下の4局が掲載されています:
W2CDJ/J2, W3IYC/J2, W6QPL/J3, W9FEZ/J5

すなわち,前節の「ポータブルJ(#)」形式と,本節の「Jの1×3」形式とは,並存していたことになります.

局名録

一覧が発掘できました! ここに置きます.

国会図書館 憲政資料室 の GHQ/SCAP高級副官部資料 に埋没していました.

マイクロフィッシュ シート番号 AG(B)-01603コマ番号:D-3,D-4

1947年12月5日現在のものです.
ただ,翌1948年12月31日まではこのフォーマット(1×3形式)が使われていましたので,もう少し局数は伸びていると思います.
なお,沖縄(J9AAA-AZZ)の分は含まれていませんでした.

コールエリアマップ

また,コールエリアマップがQST誌から発掘できました (TKS TO JA1BWA).


QST 1947年1月号 p.48

「Jの2×2」のナゾ

最後に.
受信がレポートされている「Jの1×2形式」のコールサインはなんなんだ?となるのですが,それは「自分で勝手に付けてしまった」(ゴリ押しして自分のイニシャル等で認めさせてしまった?)ものでしょう.
あるいは,いわゆるアンカバー――米国人・日本人を問わず――も含まれているかもしれません.
雑誌記事をたどりますと,以下のような局が見つかります:J2AN, J2CC, J4AA, J5QL, J9AJ, J9LG (L. Gale氏), J9LJなどが見つかります.


JAの2×2(占領軍の) の時代

登場時期:1949年元旦

1947年のITUのアトランティックシティ会議の結果, 日本の国籍識別がJ一文字からJA〜JSに減ぜられました.
このため,占領軍のアマチュアのコールサインも,変更させられています.

変更日は,1949(S24)年の元旦
すなわち,アトランティックシティ規則の発効日と同じです.

指定変更の通達の例

以下は,J2GHQにあてた,JA2AVへの指定変更の連絡です.
通達の日付は右肩,先立つこと「5 NOV 1948」となっています.
また本文に,

1. Effective 1 January 1949, amateur radio Call Signs issued within Japan will have the prefix JA and will conform to the inclosed chart indicating districts and numbers therafter. ...

――とあります



国会図書館 憲政資料室 GHQ/SCAP資料マイクロフィッシュ
シート番号:AG(B)-01955 コマ番号:A-13

残念ながら,この指示書に添付されていたはずの「エリア区分図」や「全局一覧」は欠けていました.
また,ほかにも5件の同様な通知が見つかりました.
つまり全6件ありました(コマ番号で「A-9〜14,B-1〜4」です).

QST誌での案内

QST誌でもやはり,“January 1, 1949”で切り替える旨,報じています(1949年1月号p.57):

局名録

占領軍によるJA局の一覧をここに置きます.

コールエリアマップ

コールエリアマップですが,当時のFEARLのアワードから紹介します.
JARLの資料室に掲示されているものです.
「硫黄島のJA0」がキチンと含まれているものが,ほかに見つかりませんでしたので.

関連記事

『進駐軍兵士のハムライフ 半世紀前の日本 JA5RG ストーリー』も,併せてご覧ください: http://www9.plala.or.jp/vintage/ham.html

このWeb記事は,CQ誌に掲載されたこともあります.

J8→HL1の切り替え

以下,しばらく話が脇道にそれます.
朝鮮半島では,終戦後もしばらくはJ8を使っていました.
しかし1948年2月15日に,J8からHL1に切り替えられています(US-CQ誌1948年5月p.54):

もちろん,オンエアしていたのは米軍の軍人さんだけでした.

占領軍によるJ8〜HL1局の一覧をここに置きます.

また,大韓民国の設立は「8月」ですで,それとの直接の関係はありません.

若干補足.
「ポータブルJ8」形式のコールサインも使われており,たとえばW2OAA/J8は,1946年1月からオンエアしています(US-CQ誌1946年8月p.34).
また,かわったところでは,「JC3AR on Quelpart Island between Korea and Japan」(済州島)が報告されています(QST誌1946年11月号).

J9(沖縄)→KR6の切り替え

100%の確証は見つかっていないのですが,時期は,「本土がJからJAに切り替えになった際と同時」(1949年1月1日)のようです.
コールブックでは,
・1948年冬版 が J9
・1949年春版 が KR6
と,切り替わっています.


沖縄のプリフィクスの変遷に着目した記事を,こちらに別掲しています.

J9(小笠原)→KG6Iの切り替え

前項とおなじです.

QST誌の1949年3月号のカントリーリストで,

KG6IA-IZ Bonin & Volcano Is.

――となっています.
小笠原のプリフィクスの変遷に着目した記事を,こちらに別掲しています.

J9(南洋諸島)→KG6(R〜)S〜T,KC6,KX6への切り替え

前々項におなじ...です.

少なくとも(遅くとも)QST誌1949年3月号では,以下のとおり改正が発表されています(p.54「I.A.R.U. News」):


日本が「JA7まで」になっているのは誤りです.
それまでが「J7まで」だったことによる,誤解?

KAの2×2 の時代

登場時期:1952年6月中旬

1952年,日本人によるアマチュアの開局を目前に,アメリカ軍人(軍属)はKAのコールサインを持つ軍用補助局(AMRS)へと衣替えしました.

JA2RMの証言から

切り替えのタイミングは,1952(S27)年6月中旬
すなわち,日本人による再開――7月29日に予備免許――の目前です.
この“時期”に関しては,唯一JA2RMの証言が得られています:

現在は米軍基地で確保され、アマチュア無線の電波管制上の厳重コントロール下にある硫黄島ですが、戦後直ぐの米軍ハムがJA局時代には、硫黄島にはイオージマJA0IJとJA0JIの2局のコールサインが聴かれ、JA局が日本人ハムに許可になる1ヶ月ちょっと前、昭和27年の6月中旬、一斉に、KA2−KA0のプリフィックスに変わりました。硫黄島もKA0IJとKA0JIに変わって、相変わらず、7/14メガに出ていました。

出典:『手書きパピーニュウス5号から: こんな話は残しておきたい(1)』
   http://ja2rm1blog.blog20.fc2.com/blog-entry-29.html

なお,日本の『電波監理委員会』は「6月19日」にアマチュア局の免許方針を決定しており,その中で,日本人が「JAの2×2形式」のコールサインを用いることに触れています[アマチュア無線のあゆみ]
ですから,「それまでには話が付いていた」――と,見ることができます.

QST誌での案内

以下は,切り替えを伝えるQST誌の記事です(1952年9月号p.138):

US-CQ誌での案内

同じくUS-CQ誌での記事です(1952年10月号p.48 "Here and There").
父島のKG6IGの記事とセットで紹介します:

コールブックでの案内

1952年の秋号で,以下の通知が出ています:

局名録

KA局の一覧をここに置きます.

フィラデルフィアに W3HF という,コールブック・コレクターがいらっしゃいます.
2010年の4月,ほかの用事と併せて渡米した際に訪ね,関連するページを写真に収めてきました.
帰国後,そこから反映しました.
1978年版の途中まで持ち帰ってきてあります.

そのあとは,「米本土のKAの局」とごっちゃで掲載されるようになっていました.
つまりたとえば,KA2AAZ〜KA2AB〜KA2ABA という順番で掲載されているのです.
...となりますと,日本側の局だけを拾い出すのは至難のワザ(この例ではKA2ABが該当).
それ以降の写真撮影はあきらめました.

ほかにもJA1WCご所持のARMS局の一覧などを参考にしています.

いまKA局は?

「リストをもらえないか?」と在日米軍司令部に開示請求したところ,「管理しとらん」と言われました(2009年8月24日付で回答):

... There are no documents or listings of Auxiliary Military Radio Stations in Japan as referenced in the example document included in your request.

つまり,
・制度 …… 存続
・実態 …… 1局もなし
ではないでしょうか?

筆者の知る限り,最後のKA局は,「1993年1月1日まで」で免許された,三沢のKA8ZEです.

いまでも『ALL ASIAN DXコンテスト規約』には“駐日米極東軍補助軍用無線局を除く”とありますが,制度として生きている以上は,正しい措置でしょう:


【前略】

7.得点とマルチプライヤー
(1)アジア州の局

【中略】

(2)アジア州以外の局
a: 得点
 アジア州の局(駐日米極東軍補助軍用無線局を除く)との完全な交信の得点は,次のとおり。

【後略】

しかしこの注意書きカッコの位置ですと,「アジア州の局がKA局と交信したら得点が認められる」ことになってしまいますが?

『ARMS』と『MARS』の整理

最後に,混同されることがままある掲題の両者について,違いを明らかにしておきます.
以下のとおりです:

『ARMS』と『MARS』
 ARMSMARS
フルスペル Auxiliary Military Radio Stations Military Affiliate Radio System
運用周波数 アマチュアバンド「内」 アマチュアバンド「外」
コールサイン KAで始まります
例:KA2AA
Aで始まります
例:AI1IJ
のちにはNNN0VVUのような形式になっています

もっとも,基地での両者の設置場所――もしかしたらリグも――は,共用される場合が多かったようです.


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May 15, 2017, Ryota "Roy" Motobayashi, JJ1WTL