日本のプリフィクス [JJ1WTL]

Return to Untold Facts

はじめに

戦前はJの一文字,敗戦後はJA~JS,追加で7J~7N, 8J~8N――というのは,多くの皆さんがすでにご存じのことでしょう.ここではcallsign.jpにふさわしく,もっと深く掘ってみます.日本は,Jのほかに,EK,EM-EO,ER,EU-EY,HG,HL-HMも持っていました.


1906(M36)年 第一回 ベルリン国際無線電信会議

当初の規定では,

「符号ハ互ニ異ルコトヲ要シ且各三字ノ聯集ヨリ成ルコトヲ要ス」

(「第二」を参照)とされているだけで,
国籍識別の概念自体がありませんでした.

1912(M45)年 第二回 ロンドン国際無線電信会議

この会議のあとで,国籍識別の概念が導入されます.
このとき,日本はJの呼出符号列を得ました.
以下に"Radio Call Letters: May 9, 1913" (http://earlyradiohistory.us/1913call.htm)から引用します.
初の割当表になります:

A..............All to Germany and protectorates.
B..............All to Great Britain.
CAA to CMZ..Not yet assigned.
CNA to CNZ..Morocco.
COA to CPZ...Chile.
CQA to CQZ...Monaco.
CRA to CTZ...Portugal and colonies.
CUA to CUZ..Not yet assigned.
CVA to CVZ...Roumania.
CWA to CWZ..Uruguay.
CXA to CZZ...Not yet assigned.
D..............All to Germany and protectorates.
EAA to EGZ..Spain and colonies.
EHA to EZZ..Not yet assigned.
F..............All to France and colonies.
G..............All to Great Britain.
HAA to HFZ..Austria-Hungary and Bosnia-Herzegovina.
HGA to HHZ..Siam.
HIA to HZZ..Not yet assigned.
I..............All to Italy and colonies.
J..............All to Japan and possessions.
KAA to KCZ..Germany and protectorates.
KDA to KZZ..United States.
LAA to LHZ..Norway.
LIA to LRZ...Argentine Republic.
LSA to LWZ..Not yet assigned.
LXA to LZZ..Bulgaria.
M..............All to Great Britain.
N..............All to the United States.
OAA to OFZ..Not yet assigned.
OGA to OMZ..Austria-Hungary and Bosnia-Herzegovina.
ONA to OTZ..Belgium and colonies.
OUA to OZZ..Denmark.
PAA to PIZ...Netherlands.
PJA to PJM...Curacao (Dutch)
PJN to PJZ...Surinam (Dutch)
PKA to PMZ..Dutch East Indies.
PNA to PZZ..Not yet assigned.
Q..............Reserved for code abbreviations.
R..............All to Russia.
SAA to SMZ...Sweden.
SNA to STZ...Brazil.
SUA to SUZ...Egypt.
SVA to SZZ...Greece.
TAA to TMZ..Turkey.
TNA to TZZ..Not yet assigned.
UAA to UMZ..France and colonies.
UNA to UZZ..Austria-Hungary and Bosnia-Herzegovina.
VAA to VGZ..Canada (British)
VHA to VKZ..Australian Federation (British)
VLA to VMZ..New Zealand (British)
VNA to VNZ..South African Union (British)
VOA to VOZ..Newfoundland (British)
VPA to VSZ..British colonies not autonomous.
VTA to VWZ..British India.
VXA to VZZ..Not yet assigned.
W..............All to the United States.
XAA to XCZ..Mexico.
XDA to XZZ..Not yet assigned.
YAA to YZZ..Not yet assigned.
ZAA to ZZZ...Not yet assigned.

1920(T9)年 ワシントン国際無線電信予備会議

ここでできた草案は,JA~JMに削減される方向になりました.ニッポンピンチ!:


1927(S2)年 第三回 ワシントン国際無線電信会議

ふぅ,Jの一文字を維持することに成功しました.


1932(S7)年 第四回 マドリッド国際無線電信会議

Jの一文字のままで継続です.


1938(S13)年 第五回 カイロ国際無線電信会議

コールサインが不足しつつある日本は,〈おかわり〉を要求しました.
結論から言えば,日本はEK,EM-EO,ER,EU-EY,HG,HL-HMの13シリーズの獲得に成功しています:

つまり日本は,1938(S13)~1947(S22)年の間,Jの一文字に加えて,これらの13シリーズも有していたのです.

注.2文字目までの組合せで“1シリーズ”と数えます.

日本での「J以外」の使用例

こちら↓にまとめました.
http://motobayashi.net/callbook/3letter/e.html

各国要求の調整方針

このカイロ会議では,各国から呼出符字列の割り当ての要求が出され,会議はその調整をはかることになります:

まず,最低単位の「1シリーズ」を要求する国は,それよりも引き下げようがありません.
ですので,そのままでよし とされました.

注.ただし戦後になると,1シリーズを複数国で分け合う“ハーフシリーズ”が設けられました. 現在,次の2シリーズがあります:
SS …… エジプト と スーダン,
3D …… スワジランド と フィジー.

一方,2シリーズ以上を要求する国は,「一律1/3」に削減することが求められました.

日本の要求と,14シリーズの〈一旦〉獲得

このとき,
日本は25シリーズの追加割り当てを
要求していました.

左は,
日本からの「提案=要求」であって,
「決定」ではありません.
指折り数えると,
たしかに「25」シリーズあるのが判ります.


出典:
「国際電気通信條約附属
一般無線通信規則及追加無線通信規則
ニ対スル修正提案」
(国立公文書館 蔵).

さて,その25シリーズの要求を1/3に引き下げると,8~9シリーズとなります.
しかしそこは「新設局のため」と,コールサインの所要見込数を楯にして,日本は押し切ります:


S11(1936).8.13時点の,JAA~JZZの計676コールサインの使用状況.
残数「205」.

 
当面の所要見込を示した補足資料.
前出の「未使用205」に対して,「需要426」だからオカワリが必要――と主張.

結果,日本は14シリーズの追加を得ることに〈一旦〉成功します.

イラクへの1シリーズの割譲

ところが.
これをもって呼出符字列の全シリーズがいざ配り尽くされるとなると,未要求だったイラクが「1シリーズ欲しい」と〈ちょっと待った〉をかけてきました.
そこで日本は,この会議で最多となる追加割当を得ていたため,イラクに対し1シリーズを割譲しました.

13シリーズを獲得

結果,日本が最終的に得たのは「13シリーズ」となり,これが前出のEK,EM-EO,ER,EU-EY,HG,HL-HMです.
この最後のHMの続きであるHNは,実際いまでも,イラクに与えられています.

あらためて,「要求した25シリーズ」と,「割り当てられた13シリーズ」とを比較すると,下表のとおりとなります:

 【参考】 戦後の割当先
1938年 カイロ会議1947年 アトランティックシティ会議
日本要求日本割当 
25シリーズ13シリーズ
EJ
EK
  
EKソ連
EM
EN
EO
EM
EN
EO
ソ連
ERERソ連
EU
EV
EW
EX
EY
EU
EV
EW
EX
EY
ソ連


(ソ連はくわえてEZをドイツから受領)
HD
HE
HF
HG



 
HGハンガリー
HL
HM
HN
HO
HL
HM
朝鮮
  
HQ  
HT
HU
  
HW
HX
HY
  

コールサインの組み立て

上でも触れたとおり,このカイロ会議では,呼出符字列をすべて配分し尽くしています.
ただしそれは「アルファベット1~2字による国籍識別」だけです.
「数字で始まる組み立て」,および,「2字目を数字とする組み立て」は,戦後まで編み出されていません.
それらは順に1947(S22)年アトランティックシティ会議,1959(S34)年ジュネーブ会議で考えられました.
またアルファベットだけの場合であっても,A,BまたはQで始まるブロックは,このカイロの時点では配分されていませんでした(Qだけは今でも除外).

なおカイロ会議は,コールサイン不足への根本対処として,固定局のコールサインとして「3文字+1数字」の形も認め,3文字の呼出符号の節約をはかることも同時に求めました.

以上参考「カイロ国際電信電話会議及国際無線電信会議復命書 第16節」(日本ITU協会 蔵)

1947(S22)年 アトランティックシティ無線通信主管庁会議

戦後,日本への割当てはJA~JSに削減され,JT~JXは,モンゴル,ノルウェーに割り当てられました.
この時点でまだ空いていた,
JYは,のちに「ヨルダン」で,
JZは,のちに「オランダ領ニューギニア(西イリアン)」で
それぞれ用いられることになります(現在,JZはインドネシアが所有しています).


1947年のアトランティックシティ会議で作成された割当表.

注目すべきは,数字で始まる国籍識別が登場している点や; ドイツから取り上げたDN~DTの配分先が,現在とは異なっている点です. (いま: (1)DN~DR→ドイツが取り戻した.(2)DS~DT→韓国へ.)


7J,8Jの日本への割り当て

7J, 8Jと,7K~7N, 8K~8Nとは,割り当て時期が異なります.

コールサインの不足が現実味を帯びてきた日本は, 1957(S32)年10月にITU事務総局長に〈おかわり〉を7J, 8Jとして要求していたところ, これが1958(S33)年10月23日に暫定的に認められました[1][1A].
そしてこの件は,「ITU Notification No. 804」をもって通達されました(1958(S33)年11月1日付)[2].

ただしこの7J, 8Jは,事務総局長による臨時の措置で割り当てられたものでしたので, 次回の無線通信主管庁会議――1959年 ジュネーブ――での追認が条件でした. 「管理理事会決議第151号*」というのが,そのことを表しています).

ここで一旦アマチュアの話に戻しますと,この直後に出航した南極観測隊の高室OMに8J1AAを免許しています:

時系列で整理しますと――

1958(S33).10.23 …… 7J・8J(暫定)割り当て
1958(S33).11.1 …… ITUから通達
1958(S33).11.11 …… 8J1AA免許[3]

――ですので,まさにギリギリ8Jのコールサインを与えたことになります.

仮に「1959年のジュネーブ会議で7J-7N, 8J-8Nが割り当てられた」とすると,1958年秋出航の8J1AAには間に合わないことになります.実際,「おかしいなぁ」と思って深掘りして調べたら,上述の「7J, 8Jだけは先行暫定割当」という事実に行き着いたのでした.


1959(S34)年 ジュネーブ通常無線通信主管庁会議

さて,1947年以来の決戦場,1959年のジュネーブでの無線通信主管庁会議にむけて,準備に入らないとなりません.

1957(S32).8.31付で郵政当局から問い合わせを受けたJARLは,コールサインの話に限れば,J列すべての取り戻しを進言しました[4] (無論,他国に割り当て済みではあります).




JARL NEWS 1957年12月号から

ともあれ,ITUへ日本から呼出符号列の〈おかわり〉を要求することになるわけです.
ここで,その内容について以下の二説が見つかりました:

説1(電波時報 記事)
7J~7Z,8J~8Zの日本への割り当て」を提案(1958(S33).12.24送付)した――とするもの[5].

つまり,『34シリーズ』の要求です.

説2(報告書)
『20シリーズ』を要求した――とするもの.2段落目の冒頭にご注目を[6]:

「国際電気通信連合通常無線通信主管庁会議(1959年ジュネーブ)報告書」から.
7J,8Jシリーズの日本への割り当てと共に,
「文字-数字-文字」の様式がこの会議で捻出されたこともわかる.


結果,上記報告書の中でも触れているとおり,呼出符号列については「多数の要求」があり,「各国要求の取り下げ」を図ることで調整がはかられ[7], 日本への割り当ては今に続く7J~7N,8J~8Nと決まりました.
とくに,「日本は率先してその要求を半減したところ,各国もこれにならってその要求を減少したので...」と, 日本が身を犠牲にしつつ調整に努めたことがうかがえます.

強弁ですが,「電波時報」誌が7J~7S,8J~8Sを誤記しているならば,両者とも『20シリーズ』でツジツマが合いますが....
参照:
[1]
『続日本無線史』第二部 上 p.74
[1A]
「電波年表」(「電波時報」1968.6別冊付録
[2]
「電波時報」1959.1 p.106
[3]
S34.2.18 郵政省告示 99
[4]
「JARL NEWS No.194」1957.12(CQ誌 p.71 )
[5]
「電波時報」1959.12 p.58
[6]
「国際電気通信連合通常無線通信主管庁会議(1959年ジュネーブ)報告書」p.274(JARL資料室)
[7]
「電波時報」1960.4 p.33

日本に与えられた国籍符字列の数の変遷

最後に,日本に与えられた国籍符字列の数の変遷を図にまとめます.
Jの一文字」の時代については, J1~JØを含めて考え,「36シリーズ」相当としました.

なお満州国では,

(国際呼出符号列を無視して)使っていました.


Return to Untold Facts
Dec. 23, 2014, Ryota "Roy" Motobayashi, JJ1WTL